足を運ぶ営業は無駄でなかった

銀行員で営業をしていた時の話です。営業として、ある大手企業様に訪問して、余裕資金の運用をお預かりできないか、お願いにあがりました。通常、企業様は、親会社や取引の関係で、お付き合いされる銀行を決めています。普段からお付き合いのない銀行に対しては、用がないということで、門前払いするのが当たり前です。その大手企業様とはお付き合いなく、口座もなく、ただ銀行支店が近くにあるということで、過去に先輩方が新規取引先開拓ということで、何度か訪問して、名刺を置いて行っていた先ではありました。

私は営業駆け出しの新人でしたので、おびえながらも受付のベルを押して、ご挨拶に伺いました。ご担当の方は以前は何度か担当が来ていたが、最近来ませんでしたね、とおっしゃいました。つまり、全然、こちらの誠意を感じていないということでした。しかも、当時、資金運用といっても、どこの銀行でやっても同じような利息しか付かないので、わざわざ取引銀行を増やすのはただ面倒なだけです。しかも金融機関としての信用力も高いわけではない銀行の新人担当者が行ったところで、打開できるような状況に思えませんでした。しかし、私も結果がほしいというよりも、その担当者に営業マンとして認めてもらいたくて、何の提案力もないのに、3日に一度は訪問していました。

最後には余裕資金の運用をよろしくお願いしますと念仏を唱えるように。すると、ご担当の方との雑談が増えてきて、お茶をいただくのが苦痛でなくなってきたのです。担当の方の好きな話、ゴルフの話、野鳥観察の話、など、人として素敵な方と思えるようなエピソード、雑談を伺えるようになったのです。いつしか、営業先の中での自分の休憩場所になっていました。ありがたいなあと思っていたら、何と、運用をお願いしますと言われたのです。なんで、お預かりできるのですか、と全く期待しなかったので、変な反応をしてしまいました。すると、〇〇さんは、よく足を運んでくれるので。今まではそんなことはなかったと。大手企業様で、わざわざ新規取引をしてくださる奇跡に感動しました。足を運んでみるもんだなと思いました。その日のビールは本当に美味しかったです。

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